2024.08.31
「消防検査済み」の建物はイコール消防設備全てに問題が無い・・・この認識は大きな間違いであることを知ってほしい。
新築の建物において、消防設備が設置されて消防検査が実施される。消防設備を設置する者は当然ながら設備の設置・技術基準に則って施工し、消防署がそれを検査するのが消防検査である。この消防検査をクリアした建物は問題無いと考えたいところであるが、そもそもの施工ミスや基準に反する施工がされている事案が後を絶たない。これを消防点検で指摘した時に「消防検査通っているから」とその指摘を一蹴されるケースも多い。その指摘に対して是正すべきかを検証してしっかりと対応される施工業者もいるが、多くは不具合が放置されてしまう現実をご存知だろうか。
私は新築の施工不良を指摘して闘い続けてきたが、この消防検査というものの位置付けが根本的に間違っていることへの警鐘を鳴らしたい。
消防検査を通っていれば何でも有りではない。あくまで設備の設置・技術基準に適合する施工をしたことを前提に検査を行なっているわけで、検査時に1つ1つの感知器まで全て確認出来ているとは言い難い。図面が現地と違う場合もある。図面では他設備(離隔を要する空調機等)の干渉までは分からないことも多い。まして消防職員も人間であり、間違った判断をすることもあるだろう。
建物を適切に維持するために、消防検査後には定期的に消防点検を実施するわけで、適切に設備が設置されているかを点検するように点検基準も決まっている。点検する者はその責任ある立場として❝ダメなものはダメ❞と堂々と主張するべきである。私が施工不良を指摘することに対して当初は「粗探しをして何が楽しいのか」と心無い言葉も浴びせられ多くの批判があった。それが今ではお客様には感謝され、むしろちゃんと点検しているという評価に変わってきている。
余談ではあるが消防署の対応も様々。
・「検査済み」なので指摘しないでほしい。
・我々の検査にケチをつけたいのか。
・「検査済み」と言っても現場は一部しか見ていない。あくまで試験表の通り施工業者がちゃんと施工していることを前提にしてる。
・我々も人間なので絶対ではない。点検された方の判断を支持する。
・若かりし頃に間違った指導をして後悔していることもある。我々にも間違いはある。ご容赦願いたい。
・検査した者が見切れなかったことは申し訳ない。是正をお願いしたい。
などなど。
最後に施工不良を放置した結果どうなるのか、実際に目にした現場を紹介して終わりたい。
❶ 消防査察時に指摘され是正が必要となる
通路誘導灯C級が警戒可能範囲(10m以内)を超えて警戒する状況になっており、点検で指摘したが先方にて検査済みという回答により指摘を撤回。
消防査察が入り、警戒が取れていないという指摘があり、是正を求められた。
❷ 改修工事時に検査を通せないため是正することとなる
感知器の交換工事において、空調吹出し口や壁からの離隔が取れていない場合は検査時に是正指導すると、所轄消防から事前に通告あり。
現地で数か所該当箇所が有り、交換作業だけの予定が移設工事も発生。消防点検では一度も指摘はなく、竣工時から位置は変わっていなかったという。
❸ 万が一の有事の際には正常に機能していなかった
ガス消火区画内の感知器が作動した時にガス消火の制御盤に信号が飛ばず、ガスが自動起動しない状況が20年近くあったことが判明した。
前点検業者が気付けなかったのが致命的な問題ではあるが、そもそも竣工時の施工後の試験で気付けていないことも問題である。
感知器のデータ変更を実施し、20年経過して初めて正常警戒となった。この20年に本当に火災が発生していたら誰が責任を負ったのだろうか。
❹ 不具合の是正に莫大な費用がかかる
スプリンクラーヘッドの増設のため現場調査を実施したところ、個数制限のある細い配管から無数のスプリンクラーヘッドを分岐しており、そもそもの施工不良により増設工事が出来ないどころか、この配管を全て盛り替えないと正常な監視が出来ない状況であることが分かった。
その施工不良の範囲は数百㎡にも及び、竣工から10年以上で今更どうにも出来ないからこの状況で施工してほしいと言われたが、細い配管で分岐したスプリンクラーヘッドが火災時に同時に開放しても散水が十分に出来ず消火能力が足りないことを説明し、工事を辞退させて頂いた。
※ 写真は25m程の廊下で、煙感知器が廊下の片側に寄った位置で設置され、警戒距離(15m以内)を超えて警戒している状況だった為、全体を警戒出来る位置に移設したもの。竣工時から位置は変わらず、前点検業者でも指摘はなかったという。施工不良の改修費用をお客様が負担することとなった。