2024.08.31
避難経路を示す誘導灯は最も身近であり最重要な避難設備。しかしながら最重要な誘導灯が点検で軽視されている事実がある。それは点検初心者が点検が簡単だからとまず誘導灯を教わり、誘導灯の機器自体の点検方法を覚えてそれでいいものだと勘違いするからだろうか。
点検して問題無しとした誘導灯は本当にその役目を果たせているのか。今回はこの誘導灯の点検について深堀りしていきたい。
弊社の点検では❶~❼のポイントを確認している。
❶誘導灯の警戒距離は足りているか。
誘導灯は緑色で避難口があることを示す避難口誘導灯と、その避難口までの廊下等でその方向へ誘導する通路誘導灯がある。その種類と大きさによって警戒出来る距離が変わってくる。
避難口A級:60m(矢印有りは40m) 避難口B級:30m(矢印有りは20m) 避難口C級:15m
通路A級:20m 通路B級:15m 通路C級:10m
この距離で警戒出来ているか。弊社ではレーザーで計測して確認している。
余談ではあるが、通路灯A級は特注品で重量があり、金額は高いし設置も大変なのだが、通路灯B級と比べて僅か5mしか警戒距離が変わらない。通路灯A級を設置している物件があったが、通路灯B級を2台設置すればいいのに・・・と残念に思った記憶がある。
❷誘導灯の種類は合っているか。
避難口誘導灯は避難用の階段口や各出入口、火災時に閉鎖される防火戸前に設置される。これが通路灯になってしまっている事例が多い。廊下に設置される防火戸などでは閉鎖時に防火戸に避難口誘導標識が貼ってあり、非常照明で照度が取れていれば可とされる場合があるのでこのような例外にも気を付けたい。
種類は合っていてもその機器の仕様が違う場合もある。
同じB級でも、B級BL形とB級BH形という輝度の違いがある。大型店舗などでは全てB級BH形でなければならない場合もあるので要注意である。
バッテリー容量も一般型(20分)と長時間型(60分)の違いがある。長時間型を設置しなければならない箇所に一般型を設置している事例は少なくない。点検時にその種類をチェックする必要がある。
❸誘導灯の機器に問題は無いか。
正しく設置された誘導灯でもその機器自体に問題が無いかの確認が重要。交換時期を示すランプモニターやバッテリーモニターの点滅をどう扱うかは各社で対応が分かれるところだろう。これについては点検初心者が最初に教わる部分ではないだろうか。
❹誘導灯の視認障害となるものは無いか。
誘導灯はちゃんと視認出来て初めてその意味がある。倉庫では棚やラックを配置して誘導灯が視認出来なくなるケースが多い。5m移動して視認出来ない場合は誘導灯の増設等の対応が必要という“5mルール”なるものもある。避難口の矢印付きの誘導灯が指し示す扉までの距離もおおむね5m以内とされている。かつて棚の設置で誘導灯増設が必要と指摘した倉庫で、人がいないと思われて照明を全て消されてしまったことがあるが、真っ暗な倉庫の中で誘導灯が見えない状況で避難が困難になるだろうことは容易に想像が出来た。
❺誘導灯の未設置箇所は無いか。
地下階や11階以上の階、特定用途では誘導灯設置が義務であるが、窓の前に棚を置いて有効開口を塞いで無窓階判定されれば誘導灯が必要になるし、誘導灯を設置している建物でも誘導灯のない居室内にさらに個室を設置すると“二重居室”の形で誘導灯が必要になる。今ある誘導灯が全てではなく、建物の状況で誘導灯が必要になるということも知っておく必要がある。
❻誘導灯の電源に問題が無いか。
誘導灯は各分電盤から電源を取るが、専用回路かつ一次側接続である必要がある。赤いブレーカーストッパーもちゃんと付いているかを確認する。かつて誘導灯の電源回路に非常照明が設置された物件があったが、これは非常照明の電源の取り方としては間違いである。誘導灯は停電時も点灯する必要から一次側接続とされるが、非常照明は停電時に電源が落ちてバッテリーに切り替わる必要から、二次側接続としなければならない。
❼誘導灯の設置された扉から避難が出来るか。
誘導灯が誘導した先の扉が常時閉鎖でこちらから解錠出来ない事例がある。電気錠で火災報知機からの信号で解錠するという仕様とされていて、結局誘導灯の扉が火災信号で解錠しない扉だった事例もある。誘導灯を頼りに実際に避難していると想像して、扉の状態等確認してほしい。これは点検票の点検項目に無いから不良にならないと言われたこともあるが、誘導灯がある扉から避難出来ないことは大問題であり、点検項目に無くても指摘すべきと考える。
その他、誘導灯信号装置の動作確認もある。客席灯や階段通路灯、誘導標識の点検もある。
防災屋がまず覚える点検が容易な誘導灯ではあるが、ここでは語りつくせない程に奥深く難しい設備であると同時に、避難に際してその役割は非常に重要であることを知ってほしい。