消防設備士となって約20年。法律の解釈によって誤った判断がされる場面を何度も経験して来た。
ある時、普通階と判断されながらも寝室全ての感知器を煙式に変更するよう指導された新築のデイサービスがあった。その法的根拠を所轄消防署に尋ねると、とある通達の存在を示された。しかしその内容は、寝室等において感知が遅れる恐れがある場合に煙式の設置指導をする内容の通達であり、必ずしも煙式としなければならないというものではなかった。そのデイサービスは寝室全て熱式の感知器設計をしており、煙式への変更は大幅な費用増額であったため、法的拘束力がないなら指導を撤回するよう求めた。総務省や東京消防庁にも法的解釈を確認し、市町村等の条例で規制されていなければ法的拘束力はないことをお伝えし、この件は最終的には指導撤回へと導いた。火災の早期感知が出来ないと想定されれば我々消防設備士も煙式の設計をするが、十分な設備配置で合法な設計でありながら余計な費用負担は受け入れ難く、消防指導と闘った事例であった。
このように法令の解釈は消防署毎に指導が異なり、誤った解釈を押し付けられるケースも少なくない。しかしながらそれが法令の難しさに他ならないのである。
先日、とある消防署で誘導灯増設の設置届の受取りを拒否された事例があった。その理由は「300㎡未満の特定用途は設置届提出の義務がないから」というものだった。確かに100㎡程の保育施設であった。ただこれは私の20年のキャリアで初めて耳にした話である。『いかなる設備(簡易消火用具等除く)も、軽微な工事で着工届の免除は出来ても、設置届は免除されない』という業界人の常識が覆された瞬間であった。
その後、総務省にも問い合わせて確定したことは、国の法令として「一定規模以上で検査が必要とされるものに対して4日以内の設置届提出を規定しており、一定規模未満で検査不要な場合で各市町村条例で規定されていなければ、新築だろうが設置届は不要」という事実であった。確かに法令を読んでいくとそうとしか読み取れなかった。
そこでふと疑問が湧いた。規模が小さい店舗等において、消防署の査察で竣工時の設置状況を否定する指導が散見されるが、まさかそもそも設置届が出ておらず設備の検査がされなかったためではないのか。
今回誘導灯増設に至った保育施設も、新築で初めての消防点検依頼のあった建物である。なんで誘導灯がこの状況で新築の検査を通ったのかと疑問はあったが、お客様にすぐにご依頼頂けたのでその疑問はさておき増設した案件であった。そもそもこの保育施設の消防設備の設置届が出てないとして、使用開始届等の書類審査や検査のみで設備をちゃんと見てもらえてなかったことが今回の不備の理由だとしたら、この法令は正しい法令解釈で進むよりも勘違いで設置届を提出する方が正解なのではないかと考えてしまう。今でも火災が建物規模に関係なく発生し、甚大な被害が起きているというのに、こんな消防法の落とし穴があっていいものか、疑問ですらある。
そして本年、この届出作成に関して、大きな動きがあった。当たり前に消防設備会社が代行して作成していた設置届等の書類が、行政書士が行うべき業務であり法律に抵触する恐れがあるというのである。総務省消防庁より2月に通知が出され、消防法で規定するところの各種書類に関して、行政書士が行うべき業務であるとして明確化されたのだ。そして各消防署の窓口にも注意喚起の紙が張り出されている。
確かに法律の素人が代行するリスクはあるのだが、そもそも設置届の提出をしていない業者も多い中でもはやその状況を加速させるだけであろう。結果的に届出者である施主様の責任範囲が明確化された訳だが、果たして正しい法令解釈でどれだけ法令遵守されるのか。届出の簡素化も進んでいるが、そんな背景を受けてか、新築現場の施工不良は深刻化している。それでいて消防検査の効力をかざして、施工会社には施工不良を「検査通ってるからケチをつけるな」と一蹴される。
そもそも法令を守る理由は何なのか。
果たしてそれに足る法律なのか。
現時点において、火災予防に対しては最善の法令だと思うが、実効性のない法整備とならないよう、今一度考えていきたい。
火災の悲劇を無くすため、『コンプライアンス』という言葉に振り回される現場の声に耳を傾けて欲しいと切に願う。