先日ニュースで泡消火設備の放射事故の報道があった。泡消火の配管に車両が接触し、泡消火薬剤が誤って放射されてしまい、一面泡だらけになってしまったようである。
少し前に弊社の点検物件においても同様の事故があって、配管の補修と泡消火薬剤の充填作業を行なったところだが、その作業にあたっては泡消火薬剤が容易に手に入らなくて苦労した。実は今、この泡消火薬剤を取り巻く環境が大きく揺らぐ事態となっているのである。
泡消火薬剤は人体や環境への影響が問題視されるPFAS(フッ素化合物)を含有しており、放射後の廃液処分等についても規制を受けて来たのは、広く知られていることだろう。それに加えて、そもそも薬剤を製造するために必要なフッ素原料がメーカーから供給停止されてしまい、防災メーカー各社が泡消火薬剤の製造・販売の中止を急遽発表する事態となったのである。
弊社での誤放射案件に関しては何とか薬剤を確保出来たが、既に今回の薬剤納品時に『欠品・生産中止につき今後は納品不可。代替薬剤は開発中。』と防災メーカーからも言われてしまった次第だ。
先日ニュースで見た誤放射事故の現場は大丈夫だっただろうか。それにニュースにならなくても全国の至るところで誤放射はあるし、その後の薬剤充填が出来ないというケースが起き始めているはずである。さらに、泡消火薬剤と泡ヘッドはその互換性があるかどうかペア認定を取っており、薬剤が何でもいいわけでもないところがまた苦しい状況に拍車をかけることになるだろう。
弊社の現場は、数年前に泡薬剤タンクと泡ヘッドを数千個交換したばかりで、今後の動向を見守るとともに誤放射事故が起きないよう祈るしかないのが現状である。つい最近新築で建ったばかりの現場も今後の動向次第では大変な負担がのしかかる恐れもある。まして、今まさに建築中の建物で泡消火薬剤が納品されない状況や、既存の建物でもサンプリングで不良判定された薬剤の交換が出来ない状況もあるのだろう。
このような状況下において、環境問題への国際的な取組みを考えれば、駐車場の泡消火のあり方を見直す機会であるかもしれない。
泡消火は車両のガソリンに対して効果があるわけだが、自動車業界もガソリン車から電気自動車への移行が進められており、政府は2035年までに完全移行を目標としている。電気自動車が主流となった時に、今の泡消火が本当に必要な消火設備と言えるのだろうか。
ガス消火設備もまた然りである。ハロン規制によってオゾン層破壊の原因となるハロンの生産が廃止され、それに代わる新ガスと呼ばれる代替消火剤が開発されてきた。二酸化炭素消火設備の誤放射による死亡事故もあり、ガス消火にあっては環境問題や設備の安全性へのアプローチが最重要課題となっている。
これら人類が抱える問題をしっかり見据えた上で、今の子供たちが生きる未来をどう描いていけるのか。新たな技術開発も視野に、今こそ総合的な検証が必要なのかもしれない。