私は会社を立ち上げるまで、3社の防災会社に勤めて来た。ある防災メーカーで勤めた時には、多くの防災屋と縁する機会に恵まれた。また、点検のクオリティの高さをプライドとする会社で役職をもらって勤めたりもした。
そんな中でも頭を悩ませたのが、消火栓連動停止のない起動装置(押ボタン)の点検。
火災報知機の発信機で連動起動する場合は、連動停止状態(あるいはH線離線状態)で発信機の起動確認を行い、火災受信機からの信号を1発入れてポンプが起動するのを確認すればそれでいい。これが連動停止のない起動装置では、押した瞬間にポンプが回ってしまうため、点検するにはポンプ室に人を配置しなければいけなくなってしまうのだ。結果として、ちゃんと点検していないケースが多いのが現実である。
この点検を代表で1個押すだけで良しとする防災屋が多かった。私が勤めた会社もそうであり、私自身も仕方ないと考えていたのは事実である。
前職でそれまで1個のみの動作確認しかしていなかったとある学校で、人数に余裕があったので初めて全数の点検を実施してみた時には、起動装置の不良が確認された。
独立後は自分の責任になるのが嫌だったので、全数の動作確認を時間をかけてやるようになった。そうしてとある事業所では半数以上が起動しないという事例が発生した。原因を調査すると、数年前の自火報設備更新の際の中継盤での接続ミスにより、その中継盤の先で建物の半分以上が切り離されてしまった状態だったことが分かった。要は断線状態であったにも関わらず、断線警報が出る回路でもないので、点検しない限りは発覚することが無かったのである。この状態で火災があって消火栓を起動しようとしたと考えると背筋が凍る。いかにこの起動装置の点検が重要でありながら見落とされているのかという事実を知ってもらいたい。
とはいえ、弊社の点検物件でも60台近い消火栓が火災受信機を経由していない現場があり、その点検で2時間以上ポンプ室要員を取られる状態で、何とか効率よく実施出来る術を考える必要に迫られていた。点検金額が安く人員確保が難しいこの業界にあって、これは死活問題とも言えた。
そして追い込まれた末に1つの点検方法の確立に至った。それによりポンプ室要員無しに全数の起動装置の動作確認を可能にしたのだ。
(※CHICKHAM考案と自負しているが、2020年以前から実施されている方がいたら申し訳ない!)
その方法とは一言で言うと、“消火栓起動信号の線(H線)を消火栓始動装置から離線し、火災受信機に警報発報を出す警報線に接続する”というものである。
一般的に消火栓ポンプを起動させるためには、起動線(H線2本)を消火栓始動装置に接続し、この起動線短絡により消火栓始動装置からポンプ制御盤に起動信号が入ってポンプが起動する仕組みとなっている。起動線の短絡をさせるのが消火栓にある起動装置(押ボタン)であり、火災受信機の消火栓移報端子(発信機連動)である。
また、消火栓ポンプ側から火災受信機に警報発報を出すものとしては、消火栓ポンプ運転・ポンプ故障(過電流)・呼水槽減水などがある。これらの警報も接点が閉じて発報する仕様(a接点)の為、この警報線に消火栓の起動線を接続することが出来れば、起動装置の動作で例えばポンプ故障という警報が火災受信機に出ることになる。この警報が出るかどうかで起動装置の動作が正常かどうかの確認が出来るということである。(※注意※ 全てのポンプがこの仕様では無いので、あくまで一般的な例)
これは正直しっかりとした知識が無いと事故に繋がるリスクがある。間違って200Vの端子に接続してしまったら火災受信機を壊す恐れもある。ただ、弊社ではこのポンプ制御盤の内部回路と始動装置の接続を、回路図を見て常に確認する癖を付けさせることによって、さらに高度な点検に昇華することに成功している。
この起動装置の点検以外にも、ポンプ制御盤の回路が分かっていれば、火災受信機に何の警報が出るのかもすぐ分かるのだ。
以前はポンプの警報出しと言えばこんな感じ。
A:「呼水槽満水出します」 B:「えっと・・・受信機は何も出ません。呼水槽満水の表示はなさそうです」 C:「屋上の補給水槽の警報出します」 B:「はい。警報盤に補給水槽減水出ました」 A:「あっ、こちらも制御盤に警報出ました」 B:「警報盤復旧しないのでポンプ制御盤で復旧して下さい」
こんなやり取りだったのが、回路図を読めればスマートになる。
A:「消火栓ポンプ運転・ポンプ故障・呼水槽減水・消火水槽減水を出していきます。補給水槽の警報も取ってますので、屋上で警報出すとポンプ制御盤にも出ます」 (Aが警報出し実施・・・)B:「はい。警報4つとも確認です」 C:「屋上の補給水槽減水出します」 B:「はい。警報盤に補給水槽減水出ました」 A:「はい。ポンプ制御盤も確認です。警報復旧入れます」 B:「はい。警報復旧です」
正しい理解を持って、より効率的に、より本質を捉えた点検をすること。先にも述べたように人員確保が難しいこの業界にあって、“仕方ない”でクオリティを下げるのではなく、知恵を絞った価値的な点検方法でこの難局を打開していきたい。