マニアックコラム

2026.05.05

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スプリンクラーの設計のあれこれ

私が甲種1類消防設備士を取得したのが平成22年。当時は防災屋として3年目。屋内消火栓の知識だけしかなく、スプリンクラーの設計の問題は全て捨てて臨んだ試験では、学科60%・実技60%。まさに底辺での合格だった。そんな私がスプリンクラー設備を勉強して施工にチャレンジしたのは令和3年頃、今から5年前くらいの話である。僅か5年程度の❝SPキャリア❞ではあるが、これほど濃厚な時間もなかったと思うほどに多くの経験と知識を得ることが出来た。そこで得た経験・知識の一端を少しお話したいと思う。

 

スプリンクラーヘッドの点検において、一般によく知られているのが、「ヘッドの周囲300mm、下方450mm以内には何もあってはならない」というルール。例えば倉庫内に棚を置くとしても、天井にヘッドが設置されているならば450mm以上の上部空間が必要だし、棚の最上段に荷物を積み上げれば❝散水障害❞となるわけだ。さらに、周囲300mmで考えると、天井に設置された露出型の照明器具などもその障害物となり得る。写真のようなケースはヘッド又は照明器具の移設が必要となるのだ。このような離隔距離不足の不備は、ちょっと街を歩けば無数に存在することに気付くだろう。それほど見落とされがちな不具合なのである。

そんな状況下で、厳しい目で検査されて消防から是正指示があった事例を紹介したい。

地元八千代でのこと。テナント工事で仕上げでSPヘッドを固定した後、検査当日に見てみるとまさかの照明器具用の吊ボルトがヘッドから270mmの位置に出ていた。4分の吊ボルトだったので正直散水するには何の影響もなかったのだが、地元八千代消防さんは見落とさなかった。吊ボルトは動かせないとあって、即日ヘッド移設となった。

また、横浜市でのテナント工事での話。ヘッドの設計がシビアだったため、ヘッドの配置最優先で電気屋さんに照明器具を300mm以上離隔して後追いで設置してもらう話をしていた。そして検査当日、見る限り近いところでもピッタリ300mm離隔していて問題ないかと安心していたが、横浜市中消防署さんはテナント内全ての離隔確認をされ、私が気付かなかった1箇所の離隔距離不足を指摘された。なんと285mmの離隔で15mm不足という、なかなか厳しい指摘であった。即日電気屋さんが照明器具を離隔してクリアとなったが、中消防署さんの検査の厳しさに逆に感動してしまった。ここまでやってくれれば施工する側も気が引き締まるし、検査の見落とし不備も減らせるのだろう。

この散水障害の規定の考え方で、よく上部開口の間仕切り壁の相談をされる。450mm以上の上部開口があれば、間仕切り壁の先にヘッドが無くても大丈夫かという質問が多い。これに関しては、消防署で考え方が違うので注意してほしい。仮に450mmの開口があっても、壁同様に扱う消防署はあるし、私も基本的にその考えではある。実際の散水を考えた時に、450mmの上部開口があってもその水が間仕切り壁の先に有効に散水されて消火出来る保証がない。むしろ散水されにくいと考えた方が妥当かと思う。千葉市消防局ではこの上部開口に関して「1m以上の上部開口で間仕切り壁に50cmまで寄せて設置すれば、間仕切り壁の先にヘッド設置は不要」と指導された。厳しいようだが、一理あると思った。ただ、450mm開いてれば壁と見なさないとする消防署もある。所轄消防署にしっかり確認の上で施工されたい。

 

次に見落とされがちな❝未警戒❞の話。

ヘッドの散水半径で警戒した時に、ヘッドの中心とその円の外周を結んだ直線を引いた場合に、壁等で影になる部分はその他のヘッドで警戒しなければならない。写真では窓際の凹んだ部分が一部警戒出来ていない状態である。あと50mm程左側の位置であれば問題なかったのだが、これは警戒が不十分な未警戒と言える。

また、ヘッド自体の設置を免除された部屋についても注意が必要である。

ヘッドの設置が免除される場所として

❶火災発生の危険の少ない場所:階段・エレベーター機械室・脱衣所・便所など

➋二次的な被害を出す恐れがある場所:通信機器室・電気室・手術室・レントゲン室など

❸効果が期待できない場所:エレベーター昇降路・外気に開放された廊下・劇場等で高さ8m以上ある場所など

と規定されている。これらの場所はヘッド自体は設置しなくていいが、間違えてはいけないのがスプリンクラー設備としての警戒がなくてもいいという意味ではないということ。この部分を警戒出来るように水平警戒15mの補助散水栓の包含に入るように設計しなければいけないのだ。

この設置免除に関して、注意しないと次にような不備が発生することになる。

 

【CASE1:ヘッド免除箇所の用途外使用】

ヘッドが免除された空調機械室。ここを常駐設備さんの休憩スペースや作業場としたり、荷物を置いて倉庫化している例が非常に多い。点検された方は「本来の用途と違う使い方をするとヘッドが設置が必要ですよ」としっかり注意喚起してほしい。

 

【CASE2:ヘッド免除箇所が補助散水栓警戒に入っていない】

テナント工事でヘッド免除が出来る収納を設置する計画があった。事前協議をしているとの話だったが、補助散水栓の警戒に入っていないのでヘッドが必要ではないかと確認を要請した。しかし工事はそのまま進んでしまい、消防検査で「収納が補助散水栓警戒に入っていない為、ヘッド増設が必要」と是正指示されてしまった。

同様のケースで水道メーター用のシャフトをテナント内に設置することになり、補助散水栓警戒範囲外の為、消防署に事前相談した件もある。このケースでは、人が入れない450角の点検口のみの設置として、基本的に❝デッドスペース扱い❞で認めてもらった。

 

【CASE3:補助散水栓の水平警戒内でも実際にホースが届かない】

テナント工事で店内に便所を新設することになりヘッドの免除をしたかったのだが、店内入口の位置が悪く、補助散水栓の水平警戒には入っているのに、20mのホースが実際には届かない状態であった。その状況を消防署に確認したところ、ヘッド免除箇所は補助散水栓のホースが届いて消火活動出来ることが前提であるとして、便所内にヘッドを設置することとなった。

 

これら様々な状況を踏まえて設備設計する必要があるのだ。

ちなみにヘッドを増設することになったとして、近くにスプリンクラー設備の配管があれば大丈夫かと言えば決してそうとは言い切れない。それは配管の太さによってその配管から分岐出来るヘッドの数に制限があるためである。25Aは2個以下、32Aは3個以下、40Aは5個以下、50Aは10個以下、65Aは20個以下、80Aになって始めて21個以上のヘッドをある意味無限分岐可能となる。例えば40Aに絞ってきた配管の先で32A→25Aと絞っていく場合、この40Aから先は5個までしか設置出来ない為、32Aや25Aもそれぞれ設置個数を守った上で、トータル5個以内になるように施工するのである。25Aの先で3個も4個も分岐している事例もあり、是正しながら設計し直さなければならないケースも少なくない。過去に経験した現場で50Aから数十個のヘッドを分岐していた事例もある。これは竣工時からの不備で、竣工図面は80Aを通していることになっていたから、もはや悪質である。

この個数制限も65Aをループ配管した場合には20個という制限を超えることが出来たりする。これは水源水量を考える際の同時開放数が15個や20個など、基本的に20個以下で設計している所以であると私は勝手に解釈している。

 

話は最初の資格試験に戻るが、甲種1類消防設備士の資格の勉強をしていた当時、「水平距離 1.7m以下」とか「水平距離 2.1m以下」とか数字がたくさん出てきて、その水平距離の意味がよく分からず、スプリンクラーの問題は捨てようと決めたきっかけでもあった。防災屋でいくらか勤めた頃、スプリンクラーヘッドの実物を見る機会があり、ヘッド自体に水平警戒の距離の刻印があることを知った。

写真のr2.6の刻印は半径2.6m警戒が出来ることを意味している。そして各社メーカーのカタログ等を見る機会もあったが、前述の「r1.7」とか「r2.1」のヘッドには出会えないでいた。そして最近、地下街の現場の施工機会があり分かったことがある。地下街で耐火建築物ではない場合の例で、水平距離2.1mとされているのだが、現地にはr2.3のヘッドが設置されていた。ただ、ヘッドの配置は2.1mで設計していたのである。確かにメーカーのカタログには2種の2.3mまでしか確認出来なかったが、この半径のヘッドを使用するという意味ではなく、その半径で設計しろということか。そう思って試験勉強で捨てたヘッドの設計の表を見ると理解出来た。高感度型(1種かつr2.6m以上)のヘッドを設置する際には、水平距離はそのヘッドの有効散水半径に決められた係数(このケースは0.9)を掛ける必要があるのである。例えばr2.3mのヘッドではr2.1mでの設計が必要だが、r2.8mのヘッドを使用した場合、r2.8m×0.9=r2.52m。この水平距離で設計出来るということである。ただ、既にr2.3mヘッドで設計されていたため、同一散水区域内で種別違いのヘッド設置が出来ないため、結局はr2.3mヘッドでr2.1m配置として現場を収めた。

 

さて、近年多くの現場で採用されている❝感熱開放継手❞をご存知だろうか。熱の感知部分と実際の水の散水部分が分かれている特例設置のヘッドである。

ダクトが多い場所や厨房のフード下警戒用に設置する機会が増えた。厨房のフード下の警戒で言えば、フード消火設備を設置すればSPヘッドの警戒は不要とされている。ただこのフード下警戒の考え方も大きく変わり出している。先日、都内のとある消防署にこのフード下警戒で感熱開放継手を使いたいと相談した際、「オフィシャルには出ていないが、総務省の質疑応答でフード下警戒のヘッドは不要との見解が示されており、東京管内ではフード下警戒を指導していない」と回答があった。その回答で思い当たる案件があった。弊社で点検している都内のテナントビルで店舗厨房の炎の演出の際に、フード下警戒のヘッドが弾けて大騒ぎになったことがあった。緊急でプラグ止め措置をしたが、その後の消防署との協議で「ヘッドの温度(98℃)変更不可。感熱開放継手も認めない」と言われてしまい復旧が出来ない状況だったが、急に一転して「フード下警戒は不要。ヘッド無しで問題無し」と態度を変えたのである。何とも納得出来ず、点検票にその経緯と設置不要の回答をそのまま記載して良好としたことがあった。どうやら背景にはこの動きがあったに違いない。ただ、今までもこのフード下警戒の為に数々の施工をしてきた訳で、それを指導する消防署も今でも数多く存在する。それを急に指導を転換するのはいかがなものか。それも公言せずに・・・。現場は混乱し、費用負担するお客様がいるという事実を理解して欲しいものである。

 

最後になるが、近年多くの高層マンションが立ち並んでいるが、そのマンションのリフォーム工事も活発であり、エルメックス管の工事需要が増えている。高層マンションの多くは「共同住宅用スプリンクラー設備」が設置してあり、各住戸ごとに制御弁があるので建物が大きいという点を除けばスプリンクラー自体の施工リスクは少ない。この施工に関しても最近知ったことがある。❝パラソループ工法❞という施工方法だ。お客様からこの施工が出来るかと質問があり、一旦話をお預かりして調べてみた。三井住友建設・三井化学産資・ヤマトプロテックの共同開発の工法で、従来のヘッダー工法よりも材料を40%削減、作業の生産性を20%向上出来るというもの。特に材料や工具類は特別なものは必要ないが、ヤマトプロテック曰く、業者登録の上で講習受講が必要とのこと。なるほど、これからの時代はこういった施工方法の見直しも図られていくのだろう。

 

スプリンクラー設備の施工にあたっては、ここに示した内容は最低限として、多くの知識が問われてくる。私も本格的に勉強し出してまだ5年余り。まだまだこの先も知らない現場に出会うだろう。先日も消防法で設置義務のない、東京都の条例(建築基準)で設置されたスプリンクラー設備というものも初めて目の当たりにした。

これは終わりのない挑戦かもしれないが、この5年の濃厚な日々が消防設備士として大きな成長を実感させてくれた。まだまだ❝最強の消防設備士(自分史上最強の消防設備士の意)❞たるための挑戦の日々は続く。