2026.04.12
平成13年(2001年)新宿歌舞伎町の明星56ビルで発生した火災では、小規模なビルでありながら44名の死者を出す大惨事となった。
この火災を契機に様々な検証がなされ、大きく消防法改正が進むことになった。その中で、平成15年(2003年)に制定されたのが、「特定一階段等防火対象物」の規制である。ビルの一角にテナントをオープンするにあたり、この規制により想定外の費用負担が発生してしまったとご相談を頂く機会も多い。この規制に関して、きっかけとなった新宿歌舞伎町火災の状況を交えながら、ちょっと掘り下げて解説したいと思う。

新宿歌舞伎町の火災は、3階の遊技場(ゲーム麻雀店)傍のエレベーター付近からの出火だったとされている。この火災による火煙が防火戸が有効に作動しなかったため、4階店内へ急激に流入してしまったようである。また、誤作動が多かった自動火災報知設備は電源が切られており、火災の発生を早期に検知することも出来なかったのである。そして建物の構造上屋内階段が1つであり、その階段が唯一の避難経路であったにも関わらず、多くの荷物により避難が困難な状態となっていた。さらには進入口が屋外側から広告板で覆われていて、救助活動の障害となってしまったのである。
そしてこの火災を受けて制定された「特定一階段等防火対象物」。簡潔に言うと「屋内階段が1つで地階や3階以上に不特定多数の方が入る用途が存する建物」をいう。つまり、避難経路になる階段が火煙の回りやすい屋内階段1つのみで救助活動が難しくなる地階や3階以上の階に不特定多数の方が出入りする建物は、新宿歌舞伎町の明星56ビル同様に危険性への対策が必要だとされたのである。
この「特定一階段等防火対象物」と判定されると、以下の5つが強化されることになる。
➊ 自動火災報知設備は建物の面積問わず必要
※ 特定一階段等防火対象物ではない特定複合用途の建物では設置基準は300㎡以上
➋ 自動火災報知設備の受信機は再鳴動方式
※ 平成10年頃以降は基本装備された機能だが、それ以前の古い受信機は機能が無い場合があり、受信機交換が必要となる
❸ 階段に設置する煙感知器は7.5m毎に必要
※ 基本的には15m毎に設置される煙感知器の設置間隔が半減するため、煙感知器の増設が必要となる
❹ 避難器具は一動作式が必要
※ 避難器具の設置基準は収容人員10名以上となり、設置する避難器具は一動作式となる
※ 一時退避の可能で有効なバルコニー(2㎡以上等諸条件有り)があれば一動作式でなくても可
❺ 防火対象物点検の実施が義務
※ 収容人員問わず点検義務が発生する
新宿歌舞伎町の火災を考えれば、自動火災報知設備がちゃんと機能していれば被害の拡大を防げたかもしれない。また、間違って地区ベル停止を押していたとしても、「再鳴動方式」であれば火災発生で鳴動させることが出来るし、一時停止をしたとしても再度鳴動することが出来る。そう考えると、➊と➋の強化は理解出来るだろう。
そして特定一階段等防火対象物では屋内階段が1つである点がそもそもの危険性を高めている。ただ、建築基準法では小規模な建物でなくても屋内階段が1つとして認められてしまうケースがあるようだ。それ故に消防法でそんな建物が用途変更で危険性が高まった時には設備を強化することになるわけだ。この唯一の避難経路で火災が発生していることをより早く報知するため、❸のように階段に設置する煙感知器をより感知しやすく増やす必要があるのも分かるだろう。
また、新宿歌舞伎町での火災にあっては、唯一の階段にはロッカーやビールケース等が積み上げられており、人が通れる幅はほとんどなかったようだ。4階の店内の窓は装飾等で覆われており、店内奥側にあった排煙窓も内装材によって開放出来ない状態となっており、4階の16名の従業員と11名の客の合計27名全員が死亡している。4階の避難器具(緩降機)は店内入口側の非常用進入口側に設置されていたが、恐らくその存在は従業員にも認識されておらず、使用されなかったようである。なお、17名が死亡した3階の店内には設置義務のあった避難器具自体が設置されていなかったことも分かっている。これを受けて、避難器具の重要性とともに、❹のより早く使用できる「一動作式」の避難器具の設置が必要となったのだ。
そして何より、建物としての防火管理のずさんさが生んだ悲劇であることは言うまでもない。
火災報知機の電源が切られている。階段に避難障害となる荷物がある。排煙窓などの開放が出来ないような内装になっている。火災時の対応が教育(訓練)されていない。そもそも必要な消防設備が設置されていない。建物の管理権原者がその責任を果たしていない。・・・そんな防火管理体制のチェックのため、❺の「防火対象物点検」が創設されることになったのだ。
期待を胸に新店をオープンしようとして、「特定一階段等防火対象物」と判断されてまさかの費用負担が発生してしまった経験をされた方も少なくないだろう。その事実を前に困惑される気持ちは痛い程分かる。条件のいい物件を見つけて弊社に防災工事の相談を頂いた際に、「特定一階段等防火対象物」になる事実をお伝えし、その好条件の物件を断念されたお客様もいた。心苦しく、同じ経営者として絶望的な気持ちは察しがついた・・・。
とはいえ、最低限の備えをしなければ守れない命があることも事実ではある。火災が発生した時の危険性を考えれば、この特定一階段等防火対象物はこれだけの備えをしなければならない理由も明白である。でもちょっと繁華街を歩いてみれば、防火対象物点検が義務になるであろう建物においても、防炎物品ではないカーテンが設置され、階段には避難に障害となる荷物が山積し、共用部の火災受信機は古い(再鳴動方式ではない)まま、地区音響スイッチが停止されている建物すら存在する・・・。この消防法の規制というものを広く多くの方に知って頂き、正しい知識を持って物件選びに臨んで頂きたい。そして防火管理が行き届いていない建物はその危険性を理解し、是非改善をお願いしたい。
44名の尊い命が失われて25年、その教訓を決して忘れてはいけない。